| アイドル |
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| 小さくて、ふと目を離したらなくなってしまいそうな喫茶店があった。 からん、と軋むドアを押すと、ふっくらした同年位の女性が煙草を吸って足を投げ出していた。 「おや、いらっしゃい」 二重になったあごを動かして、女性は笑った。 私は茶系統にまとめられた店内に目をやりながら、コーヒー、と言った。のんびりと換気扇が回り、静かに外との空気を隔てている。 あまり客は入らないと見えて、コーヒーはまだ沸かされていなかった。女性の斜め左に向かうように、端から2番目のカウンター席に腰を下ろす。
「突然涼しくなってきたねえ」 そんな他愛も無い話から始まったと思う。何度目かの穏やかな笑いの後、女性の後ろに幾つか写真立てが並べてあることに気がついて、なんですかその写真は、と尋ねた。女性は、ああこれかい、と首を傾けながらその中の一つを見せてくれた。 「昔は私もアイドルだなんだって、もてはやされた事があったんだよね」 そこには、にっこりと笑う、3人の可愛らしい女の子が写っている。 「知ってるかい、 っていう3人組のグループだよ。15,6位のねえ、まぁだ何にも知らないガキンチョでさ。3人とも田舎じゃ結構可愛いなんて言われてて、売れると思ってたんだよね。ところが世の中そんな甘くないだろ?話題になったのはデビューの時位で、CDも3枚出して5000枚。しばらくするとお互い喧嘩も絶えなくなっててね、それっきりさ」 肉付きのよいお腹を揺らせ、喋りすぎたと思ったのか、照れ笑いをする。これサービスね、と言って2杯目のコーヒーを注いでくれた。
「楽しかったよあの頃は。売れなくっても3人で街中を変装なんかしたりさ。追っかけだっていたんだよ。たまにTV出演があると必ずいてね、みんなであたしらの事叫ぶんだよ、LOVE-なんてね。」 当時を思い出したのか、女性は目を細めて時計の秒針を見ていた。そして髪をかき上げながら、私にえくぼを見せた。 「ま、信じるかどうかはあんたが決めればいいさ」
20 年以上前の事だ。私はとあるアイドルグループの一人に、かなり熱を上げていたことがある。トークになると、首をかしげたり恥ずかしそうに笑ったり。同志たちと一緒に指先をあごに当て、何度も声を張り上げた。たまにこちらを見てはきゅ、えくぼを作って笑ってくれる、そんな子だった。
小さな小さな喫茶店。時折ふらりと立ち寄って、ドアを開く。 「おや、いらっしゃい」
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7月8日(水)23:41 | コメント(0) | 書き散らし | 管理
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