| 空き缶 |
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| 「もう!お父さん、切った爪はちゃんと捨ててくださいな!」 母の声に、父はよく分からないうめき声を出してごまかした。新聞を抱えて、既に聞く耳を持たぬ体勢に入っている。毎日繰り返されるこの光景にも嫌気が差して、ドアを後ろ手に閉めた。そうだ、新しいクラスの越野君って、もしかして小学校のときの越野君かな。顔似てたよね。小学校の卒業アルバムって押入れだったっけ。肩越しには、使った楊枝も放っておかないで下さい!まだ母の感嘆符が続く。
押入れじゃなかったんだろうか。大分ごそごそやっているのだが見つからない。奥まで頭を突っこむと視覚がきかなくて手探りになる。左手が何か掴んだ。紙の感触ではなくて、ひんやりとした円柱状のもの。頭を出すと同時にそれも引っこ抜いた。からんからんと音を立ててお目見えしたのは大量の空き缶。しかも一個一個が紐で繋がっている。なんなのこれは?知らない飲み物ばっかりだし。底に記されていたはずの賞味期限はかすれている。
「お母さん、小学校の卒業アルバムどこにしまったか覚えてない?」 「うちにあるアルバムは全部まとめて引き戸のところにあるわよ。…あら、懐かしいもの出したわねぇ」 芋のようにぶら下げていた缶の束を、母はしげしげと眺めた。私はその顔と右手に交互に視線を動かした。懐かしい?確かに古いけどただのがらくたでしょう?
「今はあまりしないかもね。母さん達の時はね、結婚式の後車に空き缶をぶら下げてこんな素敵な人と結婚したのよー、なんて町中に自慢して回ったのよ」 掃除していた手を完全に止めて、母はうっとりと目をつむった。そんな意味があったんだ。私も目を閉じてみた。ぱさり、背中で新聞をめくる音が聞こえた。
やっぱり越野君は、あの「冬でも短パンTシャツの越野君」だった。そして4冊隣にあったアルバムには、今よりずっと若くて細い2人が、にっこりと腕を組んでいる。
「もう、お父さん!玉ねぎこっそり残すのやめてくださいな!」 相変わらず母の声に父は新聞を広げるけれど、なんだか、なんだかね、押入れの隙間から、二十数年分以上の何かが溢れているような気がしてるんだ。
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7月8日(水)23:56 | コメント(0) | 書き散らし | 管理
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