| 動かない時計 |
|
| めっぽう腕利きの時計職人のマイラ氏は、少し上がってきた額の上に、ちょこんと帽子を乗せています。小さな帽子が手元に合わせて揺れるたび、踊りたくなるようなリズムが生まれます。ちちち、ぎーこ、くん。通りすがる村人たちも、て、て、て。ぺたんこの靴を、控えめにかわるがわる持ち上げてみます。
一日の仕事が終わった後、ちびりとやるのがマイラ氏は好きです。時折すっと横切るセピアに染まる景色が肴です。右頬のほくろ、汗を拭うハンカチ、虫取り網、短い鉛筆、動かない時計。そよいだ風に目を閉じると、浮かべた氷がかすかに溶けた音がしました。
川の近くから来た兄弟たちとおじいさんが持ってきたのは、随分と古い仕掛け時計のようです。仕組みは複雑そうで、肝心の歯車はすっかり錆びていて、歪んでいて、うまく時を刻むことができません。兄弟は不安そうに、おじいさんはどこか楽しそうに、丸みのある指先を見つめています。ぎーこ。顔を上げた二人の視線の先には、マイラ氏ではなく、マイラ少年が立っていました。
ちちち、ぎーこ、くん。ちちち、ぎーこ、くん。ちちち、ぎーこ、くん。
届いた葉書を持ったまま、兄弟は息を切らしてやってきました。その後ろからゆったりとおじいさんもやってきます。 心地よく響いたぜんまい回しを置いて、二人はそっと時計から手を離します。いつの間にか1つ増えた仕掛けに、おじいさんは気がつくでしょうか。 マイラ氏はといえば、て、で、て。踊りともつかない不思議なステップで体を揺らしています。
| |
|
7月9日(木)00:04 | コメント(0) | 書き散らし | 管理
|