| 後の祭り |
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| ドミノ倒しのラストはクリオネのステッカーを貼ったXJだった。16台の引き起こしを手伝ってくれた人は、お箸が右でペンが左だった。クリオネいるらしいよ。さりげなくさりげないさりげなさを心掛けて、やっとやっと木曜日にしながわ水族館、と約束を取り付けた時には空も飛べそうな気持だったのだ。だったのだけど、うっかり、お化粧直しでトイレに1時間も籠城してしまったのはまずかったか。眉間の縦じわが3本に増えていた。
クリオネ好きなの? 12分後の突然の問い。聞いてしゃちほこばった顔に気づいた。考えたことないな。一緒にいるのが当たり前だしなあ。私は勝手に文章の目的語を私に変換してにやけてトロピカルになっていた。何、おまえはクリオネ好きなの?と聞かれて、ううん、私はいの。ええと、胃の調子最高ですと言い直す。井上君は無造作にポケットに手を入れた。 潜水艦は浮き輪で水遊びをしていた。
ここぞとばかりの質問攻めに、井上君はますます言葉少なになり、私は私でストックしていたはずの話題を、スイカの種のように飛ばす。すぐに口の中は空っぽになり、爪の甘皮だとかコーラの気泡の動きだとか、そんなものばかり気になる。泡が会話も弾いた。 捻った蛇口のようだった。苺タルトが来ると井上君はぐれそうな弟とぐれちゃった自分とぐれなかったお兄さんの話をした。中村がひざ蹴りもポリの宮高がアッパーでキムが4回は二ケツなマルボロだった。勢いに押されながらもそこにいるだけで常夏、もうどこでも南国気分なので、うんうんうんとうなずく。
社員食堂で一目ぼれして、三角の目でラブレターを渡し、心臓と水を二回飲み込んだ。メモまで書いてストックしていたはずの話題をことごとく零す。すぐに手の中は空っぽのなり、右耳の後ろだとかアイスティーの氷だとか、そんなものばかり気になる。グラスも汗をかいた。 外れた蛇口のようだった。ミルフィーユが来ると井上君はぐれそこねた弟とぐれ上げた自分とぐれたかったお兄さんの話をした。三中に小松でタコ殴りが乱闘の6発分を鼻血の斎藤が窓ガラスな挿し歯を28日だった。私にだってばっちり分かっていたのだけど、だけど、大げさな身振りにうんと相槌を打ったあの人、ここまでを否定しなくてもいいと言われた気がしたと左利きは言った。マンボウのように目を丸くして、クラゲのようにふわふわする彼女と、彼はカクレクマノミの前で初めて手を繋いだ。翌月彼のバイクの後部座席は予約席になった。カフェテラスでホールケーキを広げちゃう井上君は、かつてカンパチの鬼と呼ばれていた。
ドカンと気前良く盛り付けられた生クリームを、井上君は愛おしそうに見つめて、私の思惑を無視して思い切り頬張った。あんまり天使みたいな顔で食べないで。アロハ。 クリオネって肉食なんだ。生しらすみたいなのにな。食べたくなった? うん、寿司ネタに見えてた。井上君は意地悪なくらいまっすぐだ。クリオネのような赤い心臓までよく見える。潜水艦は深海から発信する。応答せよ、応答せよ。 空と海にはどんな違いがあるんだろう。本物の明かりになれないまま、潜水艦は高速道路を飛ばす。森田さんが夕立ちを予報していても、イルカショーを一緒に見たかった。あの日私は、助手席に乗り気じゃない井上君をのせて、半ば強引に連れ出した。俺より荒い、と言う呻き声を覚えている。ごめん、免許取って2週間だったんだ。
「はいしょはおまえにほうおふしらいしー。」 食べてからでいいよ。解読に手間取りながらも、最初はおまえに報告したいし? と遠慮がちに聞くと、大の甘党は、フォーク片手にこくこくとうなずいた。どうして、の意味、取り違えてるよ。潜水艦は深海から最後の発信を試みる。応答せよ、応答せよ。沈めた代わりに漂着したちょっとおいしいポジションは、安全で不変で、時々息が保たなかった。 ねえ、そのケーキ、あの人の分も残しておいて。
帰ってきたら高いのご馳走してね。回らないのとか? クリオネの軍艦巻きのあるとこね。あるの? ない。鬼が笑った。
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7月9日(木)00:17 | コメント(0) | 書き散らし | 管理
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