ラジ観察日記
 
かたじけないのかたじけってなんだろう。そんなファーデルさんもびっくりの観察記。いい天気。リンクフリーです☆
 

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2009年7月9日を表示

夏衣

 ずいぶんと遠い記憶だ。

 「これでもう痛くないぞ。」
 膝に手を当てて、大真面目におまじないを唱えてくれた。林檎をもぐような仕草で耳に触れてくれた。頭をこそばゆいくらい撫でてくれた。あまりにも背が高かった。逆光で覚えていられないほどに私を見てくれた。それならば、笑っていたと、私はどうやって。
 ねえ、包丁で切ってしまったの。スーツを片づけながらそっと背中に聞いてみる。単なる思い付きで、特に他意もなく、あくまでも冷静に、聞いてみたかっただけなのだ。

 「絆創膏があっただろう。」

 ふと、

 ないのか?

 手が止まっていたのだろう。やや疑問を含ませた声がした。
 いいえ。いいえ、戸棚の左に。まつ毛が邪魔になってしまうくらい大きく振り返る。ぷんと土の匂いが通り過ぎた。ノートの右隅に書いていたパラパラ漫画のように、ぎこちなく思い出す。確かにあの時、まっ白いポロシャツははためいていたと。



7月9日(木)00:19 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

後の祭り

 ドミノ倒しのラストはクリオネのステッカーを貼ったXJだった。16台の引き起こしを手伝ってくれた人は、お箸が右でペンが左だった。クリオネいるらしいよ。さりげなくさりげないさりげなさを心掛けて、やっとやっと木曜日にしながわ水族館、と約束を取り付けた時には空も飛べそうな気持だったのだ。だったのだけど、うっかり、お化粧直しでトイレに1時間も籠城してしまったのはまずかったか。眉間の縦じわが3本に増えていた。

 クリオネ好きなの? 12分後の突然の問い。聞いてしゃちほこばった顔に気づいた。考えたことないな。一緒にいるのが当たり前だしなあ。私は勝手に文章の目的語を私に変換してにやけてトロピカルになっていた。何、おまえはクリオネ好きなの?と聞かれて、ううん、私はいの。ええと、胃の調子最高ですと言い直す。井上君は無造作にポケットに手を入れた。
 潜水艦は浮き輪で水遊びをしていた。

 ここぞとばかりの質問攻めに、井上君はますます言葉少なになり、私は私でストックしていたはずの話題を、スイカの種のように飛ばす。すぐに口の中は空っぽになり、爪の甘皮だとかコーラの気泡の動きだとか、そんなものばかり気になる。泡が会話も弾いた。
 捻った蛇口のようだった。苺タルトが来ると井上君はぐれそうな弟とぐれちゃった自分とぐれなかったお兄さんの話をした。中村がひざ蹴りもポリの宮高がアッパーでキムが4回は二ケツなマルボロだった。勢いに押されながらもそこにいるだけで常夏、もうどこでも南国気分なので、うんうんうんとうなずく。

 社員食堂で一目ぼれして、三角の目でラブレターを渡し、心臓と水を二回飲み込んだ。メモまで書いてストックしていたはずの話題をことごとく零す。すぐに手の中は空っぽのなり、右耳の後ろだとかアイスティーの氷だとか、そんなものばかり気になる。グラスも汗をかいた。
 外れた蛇口のようだった。ミルフィーユが来ると井上君はぐれそこねた弟とぐれ上げた自分とぐれたかったお兄さんの話をした。三中に小松でタコ殴りが乱闘の6発分を鼻血の斎藤が窓ガラスな挿し歯を28日だった。私にだってばっちり分かっていたのだけど、だけど、大げさな身振りにうんと相槌を打ったあの人、ここまでを否定しなくてもいいと言われた気がしたと左利きは言った。マンボウのように目を丸くして、クラゲのようにふわふわする彼女と、彼はカクレクマノミの前で初めて手を繋いだ。翌月彼のバイクの後部座席は予約席になった。カフェテラスでホールケーキを広げちゃう井上君は、かつてカンパチの鬼と呼ばれていた。

 ドカンと気前良く盛り付けられた生クリームを、井上君は愛おしそうに見つめて、私の思惑を無視して思い切り頬張った。あんまり天使みたいな顔で食べないで。アロハ。
 クリオネって肉食なんだ。生しらすみたいなのにな。食べたくなった? うん、寿司ネタに見えてた。井上君は意地悪なくらいまっすぐだ。クリオネのような赤い心臓までよく見える。潜水艦は深海から発信する。応答せよ、応答せよ。
 空と海にはどんな違いがあるんだろう。本物の明かりになれないまま、潜水艦は高速道路を飛ばす。森田さんが夕立ちを予報していても、イルカショーを一緒に見たかった。あの日私は、助手席に乗り気じゃない井上君をのせて、半ば強引に連れ出した。俺より荒い、と言う呻き声を覚えている。ごめん、免許取って2週間だったんだ。

「はいしょはおまえにほうおふしらいしー。」
 食べてからでいいよ。解読に手間取りながらも、最初はおまえに報告したいし? と遠慮がちに聞くと、大の甘党は、フォーク片手にこくこくとうなずいた。どうして、の意味、取り違えてるよ。潜水艦は深海から最後の発信を試みる。応答せよ、応答せよ。沈めた代わりに漂着したちょっとおいしいポジションは、安全で不変で、時々息が保たなかった。
 ねえ、そのケーキ、あの人の分も残しておいて。

 帰ってきたら高いのご馳走してね。回らないのとか? クリオネの軍艦巻きのあるとこね。あるの? ない。鬼が笑った。



7月9日(木)00:17 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

シーラカンス

 「シーラカンス、見たことあるか。」

 帰り道、突然肩を叩かれた。よく飲み込めず、あー、シーラカンスってあれか、何年か前に話題になった。記憶という魚をおびき寄せてなんとかそれだけ返す。
「それそれ。あれがさ、いつもの沼にいるんだ。」

 ふうん。鼻から声を出すと、だんだん曇りの取れてきた眼鏡の奥から、坂田は俺の目をじっと覗き込んだ。いるんだ、本当に。相変わらず甲高い小声に、熱を含んでいる。
 おかしいだろ、あの沼? 確かシーラカンスが見つかったのってアフリカかどこかだろ。そんなおれの言葉を聞いていたのかいないのか、時々噛みながら坂田は続ける。
「昨日足滑らせてさ。沼の中、一匹大きい魚が泳いでた。圧倒される感じだった。なんだかこっちを見てる。時々口の端から泡出してるんだ。しばらくして自分が沼の中だって事に気がついて、慌てて泳いだんだけど。」
 そんなことを唾を飛ばしながら続け、綺麗だったな。お前も落ちてみろよ。坂田は恋をしているように目を輝かせた。足が周りの目にねじられ重くなり、苛立つ。一体その魚がどうしてシーラカンスなんだ。弾む声がぴたり。そして1mほど先を歩いていた坂田は急に振り返った。

 あれはシーラカンスでしかありえないんだ。
 一気に冷えた声とそればかり大きすぎる目と。一瞬鳴り止んだセミの声が、再びけたたましくなる。


 結局気のない俺にそっぽを向いて、坂田はまたぶつぶつ呟きながら離れていった。学年が上がると同時になんとなく疎遠にもなった。道の向こうを見てしまえば、あまりにも頼りない関係だったのかもしれない。


 だが、何年経ってもあの会話は俺の中に息を潜めていた。考えるたびにうんざりするのに、シーラカンスを。その思いに抗えなくなってきていた。腹を決める。
今俺は沼の淵に立っている。遂にあの目の真偽を確かめる。足からとぷりとガムシロップのように滑り込む。沼の水の、中。
鮮やか さ、を、    徐 々 に、
          失   
                             う
                     。



 ゴーグル越しの景色は、思っていたよりも遥かにビー玉だった。苔が一斉に踊り、時折、自分自身の鼓動を感じる。青暗さに五感が僅かに膨張する。
 揺らめく影に気がついたのは、奇妙な視線を感じたからだ。振り返ると、俺よりもでかそうな魚がこちらをじっと見つめている。腹から下は闇に紛れてよく見えない。ひれの動きに合わせて鱗が滑る。こぽり。不定期な気泡が脳の働きを鈍らせる。そして俺の焦点は、彼の目へと絞られていく。こぽり。

 こぽり。


 こぽり。






 体の内から疑問が浮き上がってくる。
 「どこかで、」
 それは体の内からだったろうか、それとも、もっと奥の? 殺せなかった声がごぼごぼとまとわりつく。彼はこちらを一瞥すると体を翻し、また深い闇へと潜っていく。慌てて追おうとするも、尾ひれの勢いに押され、届かない。逆上がりのできない小学生のようだった。意志と無関係に体が押し戻される。伸ばした手に、たわむ気泡を捕まえたかった。


 気がつけば目の前に郵便受けがある。右手を置き、左手の葉書を見つめている。全身がじっとりとしている。宛名も差出人もない、ただの水中の写真だ。でもそれは葉書だった。

 だんだんと、濁る記憶の中へ、メッセージが溶け込んでいく。周辺の都市開発が進み、あの沼も埋め立てられることが決まった。
 何を忘れるなと、覚えていろと言うのだろう。知っているさ。知っている。痣も手紙も汗に混じる沼臭さもシーラカンスも、意味を飲み込んで溺れないように、俺には目蓋がついている。
 水面下、それはいる。こぽ、こぽり。薄まりはしても決して消えないあのぬるい肌触りを、呼吸を思い出す度、見つめた瞳が懐かしい眼差しを湛えているような気がするんだ。
 なぁ、坂田?



7月9日(木)00:14 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

竜宮城に籠城

シンデレラ

 灰かぶりが走り帰った後、お城の階段にはガラスの靴が片足残されていました。いくら若くても女ですもの、いついかなる時も恋の駆け引きは忘れません。2,3日靴擦れに苦しんでいたようですけれど。
 翌日から、王子様の命令でガラスの靴をぴったり履くことのできる女性が探し出されることになりました。とはいえ、国中を一点しかない靴を持ってのことです、灰かぶりの家へ御者が参上したのは舞踏会から一年ほど経ってからのことでした。
 姉たちが足が入らずうなだれる中、灰かぶりは掃き掃除をしながら、みんなの周りを通り過ぎてみました。おお、もう一人娘がいるではないか。君も履いてみたまえ。はい。と様式美の段取りで、灰かぶりは内心うきうきしながらガラスの靴を受け取りました。これで私もパリジェンヌ。
その後どうなったかですって? お聞きになるまでもありませんわ。失念なさらないで下さいませね、あの子が成長期真っ只中だったということ。お呼びします? ちょっと反抗期ですけれども。

かぐや姫

 しかし月にいたときからそうだったんだろうな。ありゃ向こうから勘当されたからこっちに来たんじゃないか。プラタのバッグとかシュネルの財布とか、色んな男に貢がせてたよ。防火布なんて平安時代に売ってるかって、なあ。
 女ってやつはしたたかだな。拾ってもらいたいがためにあかんぼうなんかに化けて。もらうだけもらったら、迎えが来るからなんて、毛穴が見えるかと思うくらいの光で皆を惑わせて、さっさと月に帰っちまった。翁なんて住宅ローン組んじまったのによう。
 俺は知ってるよ。3ヶ月あまりであっという間に成長したら、そのあとの3ヵ月あまりであっという間によぼよぼのばあさんになっちまったってこと。レフ板使って皺なんか隠してたけども、ばればれだよなあ。本当はそっちだろうと。
 その後、帝は富士山からの狼煙で連絡を取り合ったということだがね、地球の反対にも男がいたってのは気づいてるんだろうかね。

浦島太郎

 乙姫様はたいそうご立腹でありましたとさ。まあ無理も無いな。地上に買い物に行かせたのにひょろひょろした男を連れてきただけだ。うっかり子供にリアルノコノコにされるは、一人間に助けられるは、私は竜宮城からのお遣いですってまぁ意味勘違いしているんだが自己申告しちゃうは。だから太郎というより亀がお城に入れてもらえなかったんだなあ。
 一応の客人には黒塗りの箱(みんな知ってるアレ)。背中の太郎の酸欠も心配なもので、全く姫様も気難しいなあ、亀は浜へ引き返した。帰り際、くれぐれも開けてはいけませんよ、これって姫様のセリフだよねえと思いながら亀は告げたとさ。
 うん、と言いつつ太郎はぱかっと開けてみた。もわもわと白い粉が! いけません! 咄嗟に甲羅に身を隠した亀だったが、何のことはない、いい感じのファンデーションだった。どうやら乙姫様仕様の最高級化粧セットだったようだ。取り違えた、と亀はひっくり返った。
 その後? ああ、絶世の美少年となった太郎は、華々しい芸能界デビューを飾ったよ。亀の方は万年雑用係に格下げされてしまったとか。乙姫様はついに人前に姿を現さなかったそうな。ま、伝説のままであるほうがいいこともな、あるな。


 めでたしめでたし。



7月9日(木)00:13 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

残像

 無重力の意識の中をくらくらと、或いはちかちかと彷徨っている。
ハンドルを握り、ペダルを踏む。坂も、通りにくいところもなく平坦な道を、ずっとまっすぐに漕ぐ。この道なら、安全だ。

 少し先の信号は赤になり、私は力を抜いてブレーキに備える。急停止など必要ない。周りの人も、きっとそうだろう。
両手に力を込めかけたところへ、前を走っていた人が、すっ、と左へ曲がった。とん、と胸を突かれる。私はそんなところに道があるなんて知らなかった。強く言ってしまえば、真後ろでボールがガラスを突き破ったときの驚きに似ていた。瞬き一つ、がしゃん。シャッターが切られた。

 トラックが地響きを上げて伸びていく。目の前の信号が青になっていたことに気が付いて、慌ててペダルに体重をかけた。フラッシュのような残像は、巡るように点滅している。
横断歩道を渡りきったところで振り返る。あの人がその後どの道を選んだのか、私には分からなかった。



7月9日(木)00:12 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

キリン

 湾岸線を通る帰り道、後部座席から眺める乱反射が、左目を叩いていた。
久しぶりの父の運転は、兄よりも穏やかで、ラジオからの洋楽が妙に明るい。
 珍しいくらい車が少ないという。風が幾度か唸った。

 荷物を待つ赤と白のクレーンが、波の隙間からまるでキリンのようにばらばらと並ぶ。みんな海なんて見ないで、首をまっすぐに、長く長く伸ばしている。
喋りたくなかった。ギラギラと照らす西日のせいにしてしまえ。どうして水面がオレンジ色に染まらないのか、季節はどんどん変わるのか。ただふりをしたいだけなのかもしれない。だけど喋りたくなかった。少しずつみんな遠くなる。それでもキリンたちは私たちを気にも留めず、ひたすらに空だけを見上げている。
 鳴いてるみたいだね。そうだね。キリンは鳴くの。分からない。
 キリンは鳴くの?

 たまにはファミレスでも行こうか。母の声に、気がつけば兄も私も頷いていた。



7月9日(木)00:10 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

フフ

ごろごろと巻きついたらもうずっと包まっていたい。フフのタオルケットは、奥歯がきゅうんとします。
タオルケットでくるんと回るフフは、まるでお姫さまのようです。長いドレスの裾を引いて、お母さんの服をつんつんと引っ張ります。すると、お母さんは恭しく、赤い缶から甘いキャンディーを取り出すのでした。
フフは晴れが好きです。お隣の男の子も晴れが好きです。お天気のいい日には干してもらって、特別お日さまの匂いがします。きゅうんとします。2人で頭まですっぽりと被ると、タオルケットはドレスから秘密基地へと変わります。ふわふわで、すべすべで、ぽかぽかで、端の辺りを、ちょっと噛んでみたくなるのです。

思わずくしゃみをしたフフのために、タオルケットはお母さんの手のひらになります。



7月9日(木)00:09 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

ニヤリ

「一番乗り」
「違います!」
「やはり」
「分かってたんですか!」
「当たり」
「あっ金のエンゼル!」
「のつもり」
「あぁっ手書き!?」
「してやったり」
「もう応募しちゃいましたよ! 恥ずかしいじゃないですか!」
「ニルアドミラリ」
「何それ!」
「のらりくらり」
「自分も知らないんですか!」
「ひらり」
「逃げた!」
「こっそり」
「お隣さんの家に!」
「投げやり」
「槍投げするなんてダサいことじゃないですよね!」
「お黙り」
「くっ!」
「思いやり」
「それは投げ出さないで下さい!」
「心配り」
「それは投げかけて下さい!」
「無理」
「拒否!?」
「仕切り」
「あぁっ心の壁が!」
「ドッキリ」
「ほっ嘘に決まってますよね!」
「あんまり」
「違うんですかー!」
「腹減り」
「人の話聞いてください! もう出前取ってるし!」
「ぼんやり」
「戻ってきてー!」
「銀シャリ」
「頂けるんですか!」
「オンリー」
「だけ!?」
「大盛り」
「二升もいりません!」
「じゃあガリ」
「おなか溜まりません!」
「ちっキュウリ」
「舌打ちしましたよね! それとできれば味のあるものが食べたいです!」
「味海苔」
「わーおなかいっぱいだー!」
「強がり」
「くっ!」
「毎度あり」
「あっ財布が!」
「儲かり」
「違いますよね! 私のお金ですよねそれ!」
「霜降り」
「あっテメー一人で何食ってやがりますか!」
「水割り」
「ダメ! ゼッタイ!」
「できあがり」
「お酒弱いなら呑まないで下さい!」
「目障り」
「くっ!」
「にがり」
「懐かしいダイエット方法ですね!」
「ぽっちゃり」
「どうして私を見るんですか!」
「関取」
「横綱どすこーい!」
「てかり」
「うわあん見るなぁー!」
「ポロリ」
「ありませんよ!」
「がっかり」
「溜め息つかないで下さい!」
「男ひでり」
「くっ!」
「流行のつもりでハッタリまったり服部もしかり」
「私の頭では最早つっこみどころが分かりません!」
「下手の考え休むに似たり」
「哀れまないでー!」
「うっとり…」
「ひぃっSだ!」
「縛り」
「ふがふがふがっ!」
「スペード縛り」
「大富豪だったんですか!」
「早とちり」
「どう考えても今の流れから判断できないですよね!」
「あがり」
「どうして5行で決着つくんですか!」
「自然の摂理」
「知りません! あっ、もしかしなくてもこのカードってウノじゃないですか!」
「なんでもあり」
「ずるーい!」
「あなたビリ」
「大貧民決定!?」
「やーいどんじり」
「ごめんね!」
「仲直り」
「私の方が立場低いんですか!」
「いつも通り」
「くっ!」
「空振り」
「せめて目を見て!」
「夏真っ盛り」
「金太郎みたいなこと言って!」
「技あり」
「これが!?」
「オットー・ネーゲリ」
「あーあの人ね、うんうん!」
「知ったかぶり」
「くっ!」
「読者様お怒り」
「きゃーすみませんー!」
「とばっちり」
「私って何なんですか!」
「お気に入り」
「やったー!」
「身代わり」
「やばー!」
「処理」
「聞きたくないけど何を!? むしろ誰を!?」
「パチリ」
「ぬあっ黒服の男達が!」
「量り売り」
「あわわっ体重計はご遠慮願いますー!」
「叩き売り」
「せめて身売りくらい言って下さいよ!」
「デリバリー」
「おでこに切手張らないで下さい! ちなみに皆さん配達員さんには見えませんが!」
「モグリ」
「えぇっ黒男並の技術はあるんですか!」
「差し当たり」
「本当に大丈夫なんですか!」
「ホロリ」
「泣くなー! というより左手の目薬は何ー!」
「ポロリ」
「じゃじゃ丸はいませんよ!」
「心残り」
「来てほしかったんですか!」
「ぎくり」
「びっくり!」
「パクリ」
「韻を踏んでると言って!」
「和栗」
「それは今食べたいものですよね!?」
「ほっくり」
「そういえば先ほどから何も食べてないんですが!」
「こっくり」
「寝るなー!」
「しっかり☆」
「応援の前に何かして!」
「お祈り」
「ちょっ止めて!」
「置いてきぼり…」
「一緒に来て下さるんですか!」
「お見送り」
「切り替え早いなー!」
「人生山あり谷あり」
「人生に関わるの!?」
「泣き寝入り」
「したいのは私だー!」
「踏んだり蹴ったり」
「誰のせいじゃー!」
「歩み寄り」
「する気ないですよね!」
「2mm」
「もう来ないでー!」
「ニタリ」
「頭に来る微笑みですね!」
「ニコリ」
「胃に来る微笑みですね!」
「クスリ」
「どっちの意味で!?」
「nearly」
「近いのかな近くないのかな!」
「終わり」
「の前にこの黒ずくめ達をどうにかして下さい! ぎゃー放せええぇ…」



7月9日(木)00:08 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

突破

 いつか白いカンバスが見えるかもしれないねと、誰が教えてくれたんだったろう。
ところでおまいさん、何の花になるんだい。緑色の種からは、やっぱり緑色かい。かたつむりがうずうずと聞く。
それそれ、早く芽を出せとばかりに、こここ。鳩が頭をつつく。
まあ、あんたの好きにやってみなよ。のそりとモグラが続けた。でさ、ちょっとあんたのことかじってみていい?

 知らないほうが世界が広いこともある。臥せた大樹がそっと囁いた。
端を発してしまえばもう戻ってこられない、気もする。体は、加速している。ざわめきが近いから、もうじきかな。とは言うも2mmとは、分厚い。
いつかの白いカンバスが見えるかもしれないね。
自分がどうやら何かの種らしいと、ぼんやり感じた。つまっているものは成分表に載っているんだろうか。いつの間にか手を休めそうになっていたことに気がついて、またぽろぽろとかき分けていく。
 例えば、と思う。しゃかりきなうろこ雲、せわしない明け方。頑なな慈雨、こそばゆい驟雨。低音の有機酸、低温の腐葉土、定温の弱酸性。全てが味方なわけではない。全てが味方なわけではない。けれども、百の稲妻、千の木漏れ陽。まだ知らないんだ。じきに土ぼこをかき出れば、きっと眩しい。
私は何になるんだろう。だけど、樹であったらいいな。
白いカンバスへ、両腕は伸びやかに。



7月9日(木)00:06 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

動かない時計

めっぽう腕利きの時計職人のマイラ氏は、少し上がってきた額の上に、ちょこんと帽子を乗せています。小さな帽子が手元に合わせて揺れるたび、踊りたくなるようなリズムが生まれます。ちちち、ぎーこ、くん。通りすがる村人たちも、て、て、て。ぺたんこの靴を、控えめにかわるがわる持ち上げてみます。

一日の仕事が終わった後、ちびりとやるのがマイラ氏は好きです。時折すっと横切るセピアに染まる景色が肴です。右頬のほくろ、汗を拭うハンカチ、虫取り網、短い鉛筆、動かない時計。そよいだ風に目を閉じると、浮かべた氷がかすかに溶けた音がしました。


川の近くから来た兄弟たちとおじいさんが持ってきたのは、随分と古い仕掛け時計のようです。仕組みは複雑そうで、肝心の歯車はすっかり錆びていて、歪んでいて、うまく時を刻むことができません。兄弟は不安そうに、おじいさんはどこか楽しそうに、丸みのある指先を見つめています。ぎーこ。顔を上げた二人の視線の先には、マイラ氏ではなく、マイラ少年が立っていました。

ちちち、ぎーこ、くん。ちちち、ぎーこ、くん。ちちち、ぎーこ、くん。



届いた葉書を持ったまま、兄弟は息を切らしてやってきました。その後ろからゆったりとおじいさんもやってきます。
心地よく響いたぜんまい回しを置いて、二人はそっと時計から手を離します。いつの間にか1つ増えた仕掛けに、おじいさんは気がつくでしょうか。
マイラ氏はといえば、て、で、て。踊りともつかない不思議なステップで体を揺らしています。



7月9日(木)00:04 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

東京ホタル

住所の書かれた紙を持ち、ぼんやりと立っていた。信号の真下で、幾たびも過ぎて行く車の群れを眺めていた。長い坂のふもとにいるような、溜め息をつきたい疲労感が重い。お困りですか。声に振り向いたとき、もう一度信号は青になった。
なぁに、話していればたいした距離ではありませんよ。メモを覗き、ホタルさんはふわりと羽を広げた。消え入りそうな羽音が無機質な道をすり抜ける。慌てて鞄を掴み、僕は彼を追った。

「ホタルさんは、」
言いかけると、私は渡辺です。ホタルで、渡辺です。テンポの変わらない言葉が返ってきた。
僕は続きを言いあぐねたまま、額をこすった。さ、林さん。もうじきですよ。ホタルさん――渡辺さんは右に曲がった。


上手な絵ですね。差し出した千円札に疑問符を点滅させつつ、彼は指に止まった。
自分がとても恥ずかしかった。指が冷えるのを感じながら、ジーンズにぐしゃりと押し込む。そして、あっ。喉でも渇きませんか。渡辺さんの返事も待たず、急いでコンビニに飛び込んだ。
果汁5%未満は甘ったるくて、風はぬるかった。

「本当は僕の名前はハヤシではないんです」
言ってから間があった。しまったと思った。妙に喉が渇く。途端に向こうの、相手のいないざわめきが耳に入ってくる。
しまった。しまった。しまった。


東京はやさしいですよ。我に返ると手の甲に渡辺さんが座っていた。目が合うと立ち上がり、炭坑節を踊り始めた。黙って見ていたけれども、その内に堪えきれなくなって笑ってしまう。東京音頭も混じってませんか。あぁ、でも。瞼が痛いのは飲んだものがすっぱかったからだ。
あぁ。
光は溢れるほどでなくていい。



7月9日(木)00:03 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

音のないあめ

 彼女に伝えたいことがあった。けれども、言葉で表現することはシナモンよりもむせてしまう。若い絵描きは、右手のパレットを眺める。ぽつ。ぽつぽつ。
 そしてそれは、やはり言葉よりもずっと奥底から、湧き上がるように。彼の絵筆は流れる。早く。早く。早く。
 アールグレイの澱みは、くるくるくる。とかき混ぜられているうちに、赤色の傘となって、くるくるくる。やがて彼女を連れてくる。
 記録的な長雨となった季節、絵描きはひたすらに画板と向き合っていた。早く。早く。長靴は、いつも右足が倒れていた。ぽつ。もっと、早く。
 止むことのない雨は、だんだんと彼の中で遠ざかっていき、ぽ。ぽつん。音など聞こえなくなる。そもそもの、存在自体を忘れてしまう。ぽつ。昨日と、今日と、明日が途切れないというのは、時々怖いことでもあるだろうか。毎日は溶かしバターとなって、気づかぬうちに小さくなっていく。じきに、










 背中へ向けた彼女の一滴の声を、雨は土へと押し流した。

絵描きは全く久しぶりに、瞬きをした気がした。彼女のお気に入りである、もしくは、そうであった赤色の傘は、いつの間にだろう。少し渋みを帯びていた。アールグレイが、誰かの代わりにあたたかい香りを立てる。
 ミヤコワスレを描きおえて、絵描きは狭い部屋の中、ぱん。と傘を開く。紫陽花の葉のように、小さな手紙がはらと落ちた。かたん。彼がしゃがむと、それまで向かい合っていた絵が露わになる。傘は、ペンネよりもくる、くるんと回っていた。

絵の中で微笑む彼女の肩へ、するり。何色とも知れないしずくが降りかかろうとしている。



7月9日(木)00:01 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理

夏色の嘘

氷がカランと音を立てた。汗をかいた琥珀色が眩しくて、風鈴が情緒深く揺れた。だんだんと大きくなるセミの鳴き声が運んできた生ぬるい風が、微かな塩素の匂いをもたらす。むっとした空気がのしかかってくる。一人分の溜め息。
気付かないうちに傷み始める夏みかん。

夏至も梅雨も大分通り越していた。打ち水の撒かれた道を行きながら、夏みかんを2つ、交互に宙に投げては取ることを繰り返す。酸っぱくなるよ。その声に、途端に唾液腺がぐぐと痛くなった。汗もかかずに、両手にぎっしりと夏みかんをぶら下げて、エイコさんはしっとりと笑っていた。


うまくめくれずにちぎれるばかりの夏みかんに飽きて、べたべたな手のまま畳に寝転んだ。張り付いた前髪の少し先、ぶらぶらと下がる提灯が面白かった。
簾を直すエイコさんの姿に母を重ねていたのか。だらしなく口を開けて、きれいに並べられた甘酸っぱいかけらを待った。仰向けで貪食していると、口角から果汁が零れた。体を少し屈めたエイコさんの、腹の指がそれをすくう。
「         」

私はその指先の意味を知らなかった。



陽炎のような記憶の中に、鮮やかな夏みかんだけがくっきりと形を成す。だけど、唾液腺は凝り固まっていて、私の体重は落ちて、爪に挟まった白皮から漂う香りさえも分からなくて、そんな言葉の群れに、ぐずぐずと述語は固まらなかった。



静かに肯くエイコさんの動作を、続きを促されているかのように感じてしまった。際限なく、リユウを並べ立てた。刺された肘のかゆみなど忘れていた。いつの間にか私は立ち上がっていて、そして一度付いた導火線は止まらなかった。いつも極端に口数が少ないと言われてきた。オレンジを搾るように、溜まっていたものを全部出すことで、「自分が」楽になりたかった。別に誰でもよかった。
「だから、」
強い語調で吐き出した接続詞を、エイコさんはそっと制した。


遠雷が呼んでいるのは、夕立ち?それとも、私?
本当はみんな言い訳なんだって知っていた。冷凍庫のみぞれをいくつもいくつも食べ続ける。追いかけるようなアブラゼミの鳴き声を背景に、ひたすら、ひたすら。夏みかんを買いに行かなくちゃ。しゃくしゃくしゃく。何のためにでもなく食べなくちゃ。しゃくしゃくしゃく、しゃく。何も思ってない、何も思ってない。しゃく。しゃくしゃく、きいん!痛さで涙が出るまで流し込んだ。みぞれって甘くないんだっけ?
倒れて少し高くなった天井をあの日と同じように、大の字になって眺めていた。
ぐるぐると回っているのは視界か、思考か。



―嘘よ。…ちょっとだけ。―




最後の一言と、うまく立ち消えてくれない無色の笑顔を、そっと引っ張り出してみる。



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