背中 |
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| 影が身長よりもずうっと長くなって、汗びっしょりになるまで遊んだ。 どこかの家から今日の夕飯の匂いがする。あっという間に家が恋しくなって、皆一目散に散っていく。 「また明日なー!」 「明日は缶蹴りししようぜっ」 僕は大きく手を振って、夕飯を予想し猛ダッシュ。 心地よい疲れをふくらはぎに感じながら、外灯の付きはじめた道を帰る。
向こうには会社帰りの父親が夕日を背に立っている。 「今日もいっぱい遊んだかぁ」 大きな手で頭を撫でられると、どうしようもなく嬉しいような悲しいような気持ちになって、腕にぎゅうとしがみついた。 父は何も言わずに微笑むと、 「おんぶしちゃる」 と僕を背負い歩き始める。 友達には恥ずかしくって見られたくない。でも心地よくて大きな背中と少し音痴な鼻歌に、僕はなぜか声を上げて泣いた。
大分涙も乾いた頃、家のオレンジ色の灯りが見えた。 変わった歌を歌う父と、ぐしゃぐしゃな顔の僕。母は、 「お風呂入ってらっしゃい」 夕飯は温かな、とても温かな肉じゃがだった。
そんなセピア色の記憶を、遊び疲れて眠っている、背中の息子に重ね合わせた。 柔らかい髪についた汗の匂いを、若かった父も感じていたろうか。
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7月8日(水)23:22 | トラックバック(0) | コメント(0) | 書き散らし | 管理
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